私は某大学に勤務していますが、これまで教授たちからひどい扱いを受けてきました。初めの頃には、ハラスメントという言葉すらなく、ようやくセクシャルハラスメントという言葉が出回り、それが転じてアカデミックハラスメントという言葉が使われるようになりました。
その後一般的なハラスメントとして、パワーハラスメントやモラルハラスメントという語が使われ始め、現在では“パワーハラスメント”が定着しました。これは国公立大学が法人化したために、それまで公務員待遇だった大学教員が私企業従業員に準ずる扱いになったためであろうと思われます。そうした中で経験したことをお話します。
1人目の教授から受けた扱いは、ハラスメントと言えばハラスメントですが、いわゆるパワハラとは違っているので、今回の話からは除外させていただきます。
2人目の教授からは、昇進と引き換えに従属を要求されました。それを拒否すると、今度は学生の指導を剥奪しようとしたり、研究室ゼミの内容が私の専門分野を排斥した内容で進めるようになりました。
挙句の果ては、私に指導を押し付けた大学院生の研究データを学会発表する際に「君の名前も付けておいて上げる」と言って自分の成果にした時には、もうダメだと思い、某NPOに相談しました。そのNPOの主催者は日本で初めてのアカハラ裁判を起こしたことで有名な方でした。相談には親身に乗っていただきアドバイスに従って、学長に直訴(?)しました。
当時の学長は私の訴えを聞き入れていただき、教授の言動を、「それが不快だと感じればハラスメントとなる」と断言してくれました。しかし、当時の研究科長が私の訴えをよくは思わなかったのです。研究科長は件の教授を票田としていたため、擁護に動きました。つまり、学長から委ねられた教授の監視をせず、私を非難し始めたのです。
NPOに逐次相談していたのですが、主催者は多忙だったため私に相談要員をつけてくれました。しかし、この担当者がNPOの活動に賛同した大学院生であり、おそらく研究テーマとしてアカハラを扱っているだけの素人だったのです。当初は相談に乗ってくれていたんですが、やがて連絡がつかなくなり、主催者に問い合わせると「卒業した」と回答が来て呆れました。
NPOの総会にも参加してみて気づいたことは、女性が多く感情的な議論が行われていたことです。確かに女性の置かれている立場が悪いことは理解できました。助手のまま長い間こき使われている人や研究成果を盗まれた人、いわゆるセクハラ以外の被害が延々と語られていました。
しかし、結局は感情的に声高に叫ぶ人が出るとそれに呼応するように感情がほとばしっている、そんな印象が残っています。当時NPOの理事が8人いたと記憶していますが、男性は2人でそのうちの1人は顧問弁護士でした。このNPOは、現在では啓蒙活動や講演会に力を入れているようで、事件の解決はあまり行っていないようです。
時は流れ、法人化が定着した頃に今度は研究科長から執拗な嫌がらせを受けました。そこで、今度は大学の問題を専門的に扱うユニオンにお願いして、問題の解決を図りました。大学の事件の専門家集団だと思ったのが甘かった。
そこのユニオンの委員長は、これが人生で最初の団体交渉だ、と張り切っていたのです。最初とは?専門家集団だと思っていたのがとんだ的外れでした。気合だけで何を言っているのかわからない委員長を見て、大学側の研究科長がほくそ笑んでいるの姿が今も目に焼きついています。
この委員長は法学部の先生だということでしたが、結局相手の言い分を全面的に受け入れることを私に提案してきたため、あきらめて一旦退会しました。
悪い医者に当ったようなものでした。悪い医者の一例として、辛い症状を訴えても「あなたよりもっとひどい症状の人はいる。だから大丈夫」と言う医者がいます。親身になるならないというよりも、次の病につながるリスクを考慮していない点で悪い医者であるということになります。このユニオンは、無条件降伏をすると次に何が起こりうるのかを考えてなかったのです。
その後、新世紀ユニオンにお願いして解決に至りました。この2つの経験から言えることは、法的知識を持たない人間にハラスメントは解決できない、ということです。
NPOの主催者は、裁判に勝った経験からどうすればいいかをわかっているつもりでしたが、あくまで多様なハラスメントのうちのひとつに対応しただけであり、無限に起こりうるハラスメントに対処できるほどの知識を持ち合わせていなかったということです。
また大学向けのユニオンは、こちらも法的知識が不充分であったため、対応ができなかったということです。リスク管理もできていなかっただけではなく、団体交渉のいろはも知らなかったという点では、無知の悪であったと言えます。
結論を言えば、法的知識に乏しいところに相談してもムダだし、リスク管理の問題を意識していないところには相談しても結果は伴いません。現在NPOは啓蒙活動を頑張ってらっしゃるし、ユニオンは重篤な患者、ではなく、違法解雇を受けた教員の救出に頑張ってらっしゃいます。
しかし、表立ってこないハラスメントを受けている教員や研究員の方々は助けてもらえないでしょう。まずは自覚が必要です。大学の教員や研究員は特別な職業ではなく、あくまで従業員=サラリーマンであるということ、を。そうすると、自ずから相談先が、大学の問題を扱う特別な組織ではなく、労働問題を扱う組織でなければならないということ、を。
私は新世紀ユニオンを勧めているわけでは決してありません。今困っているあなたがいる地域で相談できる組織があるならそこへ行くべきです。何度も辛い思いを話せば、悪い医者でも親身になって診てくれるように、きっといいアドバイスがもらえますから。ただ、起こりうる可能性としては、新世紀ユニオンを紹介される可能性が高いように思えます。